「なぜ効いたか分からない」広告を、LLMで構造データ化して評価
価格訴求ばかりが勝ち続ける構造を変える。クリエイティブを構造データとして扱い、「狙う認知」起点で評価から次の企画までを設計する
消費者向けに商品・サービスを展開する弊社のクライアント様は、広告・LINE・メールで多数のクリエイティブを継続的に配信しながら、「結局どのクリエイティブが、なぜ効いたのか説明できない」という課題を抱えていました。値引き訴求ばかりが勝ち続け、クリエイティブは画一化していました。弊社は、クリエイティブを「訴求・ターゲット・伝え方・ビジュアル」といった軸で構造データ化し、評価と企画をつなぐ仕組みを設計・構築しました。本記事では、その課題の捉え方と取り組みをご紹介します。
本記事の位置づけについて 本事例は、atarayo が設計・構築したクリエイティブ評価基盤の取り組みです。掲載にあたり、企業名・業種は匿名化しています。
1. 取り組み前の状況・課題
課題①:その広告が「なぜ効いたか」を説明できない
同社の現場では、広告・LINE・メールそれぞれで多数のクリエイティブを配信していましたが、評価は「クリック単価」「獲得単価」といった結果指標に偏っていました。あるバナーが当たっても、効いたのは打ち出した訴求なのか、狙ったターゲットなのか、伝え方(問いかけや実績の見せ方)なのか、ビジュアルなのかを切り分けられません。「良かった/悪かった」は分かっても、「なぜ」を言語化できないため、次の一手が経験と勘に頼りがちになっていました。
課題②:価格訴求ばかりが勝ち続け、勝ちクリエイティブが画一化
エンゲージメント単価(クリックや獲得あたりの効率)で評価を続けると、すでに購入意欲の高い層に届きやすい「価格・割引」訴求が、構造的に勝ち続けてしまいます。その結果、露出の大半が値引き訴求に寄り、体験や発見を伝えるクリエイティブは「効率が悪い」と判断されて減っていきました。勝った訴求を使い回すほどクリエイティブは画一化し、ブランドとしての訴求の幅がやせていく、という悪循環が起きていました。
課題③:セグメントとファネルの設計がなかった
「誰に・どの検討段階で届けるか」の設計が薄く、認知を広げたい層にも刈り取り向けの訴求を当ててしまう場面がありました。さらに、どのセグメントへのリーチが足りていないのか、どのCEP(カテゴリーエントリーポイント=お客様が「そのカテゴリーを思い出す」きっかけになる場面)が不足しているのかを、把握・分析できていませんでした。広告・LINE・メールのチャネルごとの役割(認知・育成・刈り取り)も整理されておらず、各チャネルが同じ評価軸で横並びに比較されていました。
2. atarayo のアプローチ
atarayo がまず取り組んだのは、新しい配信ツールの導入ではなく、**「クリエイティブを構造データとして扱える状態にすること」**でした。既存の運用フローに評価機能を後付けするのではなく、評価・分析・企画を一つのループとして設計し直す——AI-native な業務設計の考え方を、マーケティングの現場に当てはめました。
クリエイティブを評価するための軸は、次のように設計しました(軸の取り方は事業や商材に合わせて設計します)。
- 訴求:何を伝えるか(価格・割引/体験・発見/限定・先行/安心・信頼 など)
- ターゲット:誰に向けるか(セグメント)
- 伝え方のパターン:どう伝えるか(問いかけ/強調/問題提起/実績訴求 など)
- ビジュアル:何を主役に見せるか(被写体・色・レイアウト など)
その上で、次の3層からなる仕組みを構築しました。
第1層:クリエイティブを構造化する(日常運用)
配信済みのクリエイティブ画像を LLM に渡し、上記の軸で自動的にタグ付けしました。これにより、クリエイティブ1点を構造データとして扱えるようになり、「どの組み合わせが数字を出しているか」をチャネル別に見られるようになりました。

図1:第1層 広告ダッシュボード ― クリエイティブを構造化し、組み合わせごとの数値を可視化
第2層:認知ポートフォリオで「偏り」を見る(月次の経営判断)
タグ付けした軸 × 認知ファネル(認知・興味・検討・決定・継続)でクロス集計し、いま露出がどこに偏っているかをヒートマップで一望できるようにしました。価格訴求が決定段階に集中している一方で、体験訴求は検討段階が薄い、といった「偏り」と、そもそもクリエイティブが存在しない「未配信パターン」が一目で分かります。ここが、月次でキャンペーン全体を判断する起点になりました。

図2:第2層 認知ポートフォリオ ― 軸×ファネルで「偏り」と「未配信パターン」を一望
第3層:「狙う認知」起点で次の企画を設計する(キャンペーン設計)
偏り分析をもとに、「次に作るべき組み合わせ」を企画AIが提案する仕組みにしました。売りたい商品を起点にするのではなく、「どの認知を厚くしたいか」から逆算してターゲット・コピー案・構図イメージまでを設計し、画像生成のプロンプトまで橋渡しします。生成そのものはデザイナーが担い、できたクリエイティブは再び第1層に蓄積されて、次の分析精度を上げていく設計です。
評価指標も見直しました。認知を広げる段階のクリエイティブを「買ったかどうか」だけで測ると、温度の高い層にしか刺さらない訴求が過大評価されてしまいます。そこでチャネルごとに役割(広告=認知、LINE=育成、メール=刈り取り)を定義し、ファネル段階に応じた指標で評価する設計としました。
3. 取り組みの成果
構造化によって最初に変わったのは、月次のキャンペーン会議の中身でした。これまで「どのバナーのCPAが良かったか」を眺めるだけだった会議が、「価格訴求が決定段階に偏りすぎている」「体験・発見訴求は検討段階がほとんど空白」という、露出の偏りを起点にした議論に変わりました。
そこで、薄かった「体験・発見 × 検討段階」を厚くする企画と、これまで試されていなかった「未配信パターン」の検証に予算を振り分けました。価格訴求という勝ち筋は残したまま、検討段階の打ち手を増やしていったかたちです。
その結果、検討段階での取りこぼしが減り、全体のCVRと獲得単価が改善しました。価格訴求一辺倒だった露出構成もほぐれ、クリエイティブの幅が戻ってきています。
| 指標 | 取り組み前 | 取り組み後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 検討段階での「体験・発見」訴求の構成比 | 4% | 16% | +12pt |
| 価格訴求への露出集中度(インプレッション比) | 62% | 41% | −21pt |
| 全体のCVR | 1.8% | 2.4% | 約1.3倍 |
| 獲得単価(CPA・指数) | 100 | 82 | −18% |
| 新たに検証できた「未配信パターン」 | 0 | 11パターン | +11 |
定性的にも、「なぜ効いたか」を訴求・ターゲット・伝え方・ビジュアルの組み合わせで説明できるようになり、次に作るべきクリエイティブを会議の場で言語化できるようになりました。
まとめ
「広告は回しているが、なぜ効いたかを説明できない」「気づけば値引き訴求ばかりになっている」こうした課題を抱えるマーケティング責任者の方へ。atarayo は、データ・AIを最大限活用したマーケティング体制を設計するところからご一緒します。
また、atarayo はクリエイティブ評価にとどまらず、データ分析を意思決定につなげる支援や、AIの活用、自社に最適なAIの設計・構築まで、幅広くご支援しています。「どこから手をつけるべきか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。