【DX推進】何から、どう進める?|実践ステップとポイント・事例までを解説

【DX推進】何から、どう進める?|実践ステップとポイント・事例までを解説
《DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単なるデジタルツール導入ではなく、データとAIをはじめとするデジタル技術を最大限に活用し、製品・サービス、ビジネスモデル、組織文化そのものを根本から変革することです。これらの変革を通じ、企業は顧客提供価値を最大化することを目指します。》

少子高齢化、デジタル技術の爆発的な進化、消費者行動の多様化、パンデミックなどの予期せぬ危機、、日本企業は激しい変化に直面しています。また「2025年の崖」として警鐘が鳴らされるように、旧態依然としたレガシーシステムは年間最大12兆円の経済損失リスクを突きつけています。

また、AIを活用してビジネスで優位性を築くには、独自のノウハウや情報を蓄積したデータ基盤が重要になります。というのも、AIの学習する情報は、独自性が高く価値が大きいほど、AIのアウトプット品質も高くなるからです。そのため、AIの価値を最大化するためにも、前段としてDXが必要不可欠なのです。

もはや、DXそしてAX(AIトランスフォーメーション)とは「やったほうがいいこと」ではなく、「やらなければ生き残れない」時代の必須戦略となっています。

このような状況下でDX推進は、データドリブンな意思決定による新たな価値創出と顧客体験の向上、AIによる業務の劇的な効率化と人手不足解消、パンデミックや災害などの有事への対応力強化など、多くのメリットをもたらします。 しかし、闇雲なDX推進では、期待する効果には繋がりにくいため、しっかりとしたステップを踏んでいくことが重要です。

この記事では、実践的なDX推進ステップ、ポイント・注意点、実際のDX事例をご紹介し、丁寧に解説します。

DX推進のステップ

DX推進は一朝一夕で成し遂げられるものではなく、段階を踏んで着実に進めることが成功の鍵となります。ここでは、DX推進の主要なステップを解説します。

ステップ1:現状のデータ活用課題の特定と要件定義

DX推進の第一歩は、漠然としたビジョンを掲げるのではなく、「データをどのように活用して顧客への価値に繋げるか」や「データをどのように活用して現状の課題を解決したいか」を明確にすることです。これにより、データ活用の具体的な要件を定義し、DXの方向性を定めます。

1. 業務プロセスの棚卸しと課題の特定

部門ごとの業務フロー、使用しているシステムやツール、データの流れを詳細に洗い出し、データが分断されている箇所やボトルネック、非効率な業務を特定します。この段階で、「なぜこのデータが必要なのか」「このデータを使って何をしたいのか」といった問いを深掘りし、データ活用の要望を具体的に整理することが重要です。

2. データ活用の要件定義

整理した要望、テーマをもとに、「売上予測の精度を上げたい」「顧客対応のリードタイムを短縮したい」など、解決したい課題を具体的に言語化します。 また、「売上を〇%向上させる」「顧客満足度を〇点改善する」「リードタイムを〇%短縮する」など、何を達成するのかを具体的な数値目標(KPI:重要業績評価指標)で設定することも重要です。

3. 現場との認識のすり合わせ

上層部だけで決定し推進することで、現場が変化に対応できずに失敗してしまう可能性があります。そのため、大まかな方向性を整理し、現場の人たちに伝えることで、変化することに対して認識をすり合わせておくことが必要です。

ステップ2:DX戦略の策定

ステップ1の要件定義に基づいて、それを実現するための技術とプロセス、各ステップをいつまでに、誰が、どのように実行するのか目標の設定をします。

1. 優先順位付け

現状分析で特定された課題を「ビジネス効果(儲かるか、楽になるか)」と「実現難易度(すぐできるか、難しいか)」の2軸で評価し、「効果が大きく、かつ実現が比較的簡単なもの」から着手するように優先順位をつけます。

2. 技術と業務プロセスの決定

技術選定
課題解決のために必要なデジタル技術(AI、IoT、クラウドなど)を選定します。

業務プロセスの再定義

技術をどのように使った業務プロセスにするかを定義します。例えば、顧客とのコミュニケーションの自動化の場合、最低限自動化でどこまで対応するかを決め、簡単な内容はここで解決できるようにする。そして解決できない内容の場合はエスカレーションし、カスタマーサポートの担当者が個別に対応するようにする、というような業務の流れを設計しておきます。「誰が・どのように・どう動くか」の役割を設定しておくことで、実践して不具合が出た際に、修正をするプロセスを特定して動けます。また、業務のマニュアルが作成ができるため、部門内で新しいプロセスを浸透しやすくなります。

3. 目標の設定

フェーズごとの目標と計画
数ヶ月で達成できる短期目標から、数年がかりで取り組む長期目標まで、段階的に設定します。各目標達成に必要なタスク、担当者、期限、リソースを明確にした具体的な計画も同時に策定します。

効果測定指標の設定

各フェーズでどのような指標を追跡し、効果を測定するかを定めます。

ステップ3:実践と実行(PoC/スモールスタート)・KPIによる監視

戦略が整ったら、いよいよ具体的なDX施策を実行に移します。最初から大規模なプロジェクトを目指すのではなく、PoC(概念実証)やスモールスタートで小さく始め、成功体験を積み重ねることが重要です。

1. PoC(概念実証)の実施

DX戦略に基づき、特定の課題について、最小限の機能を持つプロトタイプを使い、小規模な環境で効果検証を行います。そして、PoCの結果を客観的に評価し、課題や改善点、期待される効果を明確にします。

2. スモールスタートとKPIによる測定

PoCで効果が確認できた施策から、特定の部門や業務に限定して組み込みます。DXをいきなり全社的に展開するのではなく、ステップ2の優先順位に沿って、まずは特定の課題やテーマに絞って取り組みます。この「スモールスタート」によって、すべてのデータを活用しようとするのではなく、選んだテーマの解決に最低限必要なデータに絞って活用できます。また、具体的な数値を設定したKPIで効果の測定をし、ブラッシュアップを重ねていきます。

ステップ4:成功パターンの横展開と全体最適化

スモールスタートで成果が得られた成功パターンを、部門間を跨いで横展開していくことで、企業全体の最適化につながります。しかし実際は、テスト領域やスモールスタートでの部分最適の域を出ることは難しいです。そのため、最初から他の部門も使える仕様、横展開を見据えた仕組みを検討しておくことも必要です。 また、部分最適で終わらせないためには、現場を巻き込んだ全社的な意識の醸成と継続的な改善サイクルが鍵となります。

1. 成功事例の横展開と共有

スモールスタートで得られた知見や、KPIから目標達成状況など、情報や進捗状況を部門を問わず共有します。各部門がDXの取り組みを自分ごととして捉えられることで、「この成功パターンはうちの部門で応用できる」といった具体的なアイデアが出やすくなり、横展開がスムーズに進みます。

2. 継続的な改善と技術のアップデート

DXは一度やったら終わりではないです。デジタル技術は常に進化しているため、エンジニアから技術的観点で現状をチェックしてもらい、必要であれば新しい技術を導入することも検討する必要があります。また、現場からのフィードバックを吸い上げながら継続的に改善することが重要です。

DX推進のポイント・注意点

DX推進を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえ、陥りやすい落とし穴を避ける必要があります。

明確な目的設定

明確な目的がないままDXを推進すると、単にデジタルツールを導入するだけに留まったり、一過性の取り組みになってしまい、本来のビジネス課題の解決やデータドリブンな意思決定、新たな価値創造に繋がらないリスクがあります。「何を解決したいのか」「どのような価値を創造したいのか」といったDXの目的を明確にし、具体的な数値目標(KPI)を設定することで、ブレない推進が可能になります。

スモールスタートとアジャイルな推進

最初から大規模な変革を目指すのではなく、小さく始めて成功体験を積み重ねる「スモールスタート」が推奨されます。PoC(概念実証)で効果を検証し、計画・実行・評価・改善を繰り返すアジャイルな手法を取り入れることで、変化に柔軟に対応できます。失敗を恐れず、学びにつなげる文化を醸成することも重要です。

全社的なコミュニケーションと意識改革

DXは一部署のプロジェクトではなく、全社的な取り組みです。経営層がDXの重要性を深く理解し全社にDXビジョンを明確に伝えることや、部門間の連携、従業員の意識改革を促す丁寧なコミュニケーションが欠かせません。DXのビジョンや成功事例を共有し、変化への抵抗を解消することで、組織全体で変革を進める土壌を育むことができます。

既存システムの整理とデータ統合

複雑化した既存システム(レガシーシステム)はDX推進の大きな障壁です。 自社のIT資産を正確に把握し、不要なシステムは廃止、統合できるものは統合するなど、レガシーシステムの棚卸しと整理が重要な作業となります。 また、部門ごとに散在するデータを統合し一元管理することで、データ活用を容易にします。データ活用の基盤を整えることで、精度の高い意思決定や新たな価値創造へと繋げられます。

セキュリティ対策の徹底

デジタル化が進むにつれて、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクも高まります。DX推進においては、セキュリティ対策を常に意識し、最新の対策を講じることが不可欠です。全社的なセキュリティポリシーの策定、システムの脆弱性診断、インシデント対応体制の構築を徹底しましょう。

適切な外部パートナーの活用

自社だけではDX推進に必要な人材やノウハウが不足している場合がほとんどです。その際には、外部の専門パートナーの力を借りることが近道となります。 その際には、DX推進の目的である『事業を通じて、お客様にどんな価値を提供したいのか』という事業の根幹をしっかりと理解し、共に学んでくれるパートナーを選ぶことが重要です。 単に技術的な支援を提供するだけでなく、事業内容、領域、顧客、価値提供などを深く理解し、実際の意思決定や施策に繋がるような提案をしてくれるかを見極める必要があります。

実際のDX事例

DX推進は、業種や企業規模を問わず、様々な企業で成功事例が生まれています。ここでは、日本と海外のいくつかの最新のDX推進事例、atarayoの事例をご紹介します。

日本・海外の最新DX事例

JAL:航空機メンテナンスの刷新

長年使用していた航空機のメンテナンス管理システムを刷新するために、IFS Cloudを導入。 航空機、エンジン、部品のメンテナンスを統合し、サプライチェーンや財務管理などの企業機能とも連携。これにより、メンテナンスの効率化やリアルタイム分析、予知保全が可能となり、航空機の稼働率を向上させることを目指しています。

参考:https://avitrader.com/2025/06/03/japan-airlines-to-modernise-aircraft-maintenance-with-ifs-cloud/

■LIXIL:顧客体験や従業員体験を向上を目的とした革新

AI音声認識を用いた接客サービスをオンラインショールームに導入し、顧客とのコミュニケーションをスムーズにしたり、3DやAR技術を活用し視覚化したリフォームサービスの提案を行う。また、生成AIツールの開発を通じて生産性向上を図るなど、全社的なDXの定着を目指しています。

参考:https://www.lixil.com/jp/investor/strategy/digital_index.html

■Acentra Health(米国):ヘルスケアの業務革新

特殊な医療文書を生成するWebアプリケーションMedScribeを開発し導入。MedScribeで生成された文書の承認率99%を達成し、対応時間の短縮、看護師の業務時間、コスト削減を実現。専門的な知識を要するヘルスケア分野でのAIを活用したDXは、業界全体から注目されており、今後の拡大が期待されています。

参考:https://www.microsoft.com/en/customers/story/19280-acentra-health-azure

atarayoのDX支援事例

■オンラインセミナー後の煩雑なデータ処理を自動化

課題: オンラインセミナーを主要施策とされているクライアント様企業にて、以下の課題を抱えていました。

  • セミナー後の手作業でのデータ処理に膨大な時間と手間がかかり、本来取り組むべきセミナーの質向上や顧客対応の改善といった戦略的な業務に集中できていない。
  • 入力ミスなどのヒューマンエラーが頻発している。
  • フローが複雑になり、作業が属人化している。

支援・成果: ワンクリックでデータ整形から顧客管理システムへのインポートまで可能なデータ基盤を構築し、お客様が本来注力すべき顧客データを活かす”戦略に集中できる体制を作りました。結果として、人為的なミスを0にするとともに業務の大幅な効率化を実現しました。

詳細:オンラインセミナー後の煩雑なデータ処理を自動化


■データ収集から整形、可視化までの自動化

課題: BtoBのマーケティング支援ツールを提供しているクライアント様企業にて、以下の課題を抱えていました。

  • 複数の広告媒体を運用されており、散在する広告・サイト・MAツールのデータ集計とレポート作成に膨大な工数を費やし、肝心な施策の立案や改善施策の思考に時間が割けない。
  • 手動でのデータ集計により、ヒューマンエラーが発生している。

支援・成果: データ収集基盤、データマート、LookerStudioによるダッシュボードを構築。散在したマーケティングデータの集計の自動化により作業工数を削減に加え、ヒューマンエラーがなくなり、データの精度が向上しました。また、自動化したことにより、戦略に十分な時間を取ることが可能になりました。

詳細:データ収集から整形、可視化までの自動化


■広告の予算配分を最適化し、広告運用を最大化

課題: EC事業を展開するクライアント様企業にて、以下の課題を抱えていました。

  • 広告予算の配分が過去の成功事例などの経験則に頼っており、根拠が曖昧な配分になっている。
  • CPA(顧客獲得単価)が良好に見えるチャネルに予算を集中させた結果、全体的なCPAが悪化し、顧客獲得効率が低下する事態が発生していた。
  • 複数の広告代理店が異なる媒体を担当していたため、広告効果の全体像を把握し、横断的に分析することが困難。

支援・成果: データ基盤を構築することで、散在していた広告データを統合、分析に適した形に整備。MMM分析により、各広告チャネルの貢献度とROIを可視化し、最適な予算配分をシミュレーションすることで、効果的な広告運用を提案しました。結果として、経験則から脱却し、機械学習を活用した最適な予算配分が可能となり、同じ広告予算で総コンバージョン数が1.3倍に増加しました。

詳細:広告の予算配分を最適化し、広告運用を最大化


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まとめ

DXは企業が生き残り、未来を創造するために不可欠な変革です。少子高齢化、激化する競争、そして「2025年の崖」といった喫緊の課題に直面する今、データとデジタル技術を駆使したDX推進なくして企業の持続的な成長は望めません。 本記事で解説したロードマップとポイントを参考に、ぜひDX推進の一歩を踏み出してください。株式会社atarayoは、貴社のDXを力強く支援し、新たな価値創造を共に実現します。

よくあるご質問

Q1.DXは中小企業でも推進できますか?

A1. もちろん可能です。企業の規模を問わず、持続的な成長には不可欠な経営課題と言えます。特に、少子高齢化による人手不足の影響を受けやすい中小企業こそ、積極的にDXを推進していくべきです。

これまで、データを扱うには専門的な知識や技術が必要だとされてきましたが、これからはAIがデータインフラを構築する時代へと移行します。これにより、データインフラを基盤とした新たな価値創造へのハードルは劇的に低くなっています。AIだけでなく、IoTやクラウドコンピューティングといったデジタル技術も、近年では中小企業でも手軽に導入できるサービスとして普及が進んでいます。大規模な先行投資が困難な場合でも、まずは特定の業務プロセスをデジタル化する「スモールスタート」から始めることが成功への鍵となります。また、自社だけでの推進が難しい場合は、外部の専門パートナーの知見やノウハウを積極的に活用することが、効率的かつ確実なDX推進に繋がります。

Q2.どのような業界がDXを推進する必要がありますか?

A2.DXはあらゆる業界で有効であり、持続的な成長をするには不可欠です。 atarayoでは、業界を特に限定せず、データやAIを活用してビジネスを成長させたいという意欲のある企業様を支援しております。これまでには、BtoB SaaS・ITサービス、EC・通販、小売・店舗サービス、メディア、法律事務所、金融、教育、製造業など、幅広い業界でのご支援実績がございます。事例・実績についてはこちら(https://www.atarayo.co.jp/case-study/)。

Q3.DX推進の費用はどのくらいかかりますか?

A3. DX推進にかかる費用は、企業の規模、目指す変革の範囲、導入するデジタル技術の種類によって大きく異なります。初期投資としてシステムの導入費用やコンサルティング費用、継続的な運用・保守費用などが発生します。大切なのは、単なるコストとして捉えるのではなく、中長期的な視点で企業の新たな価値創造に繋がる「投資」と考えることです。まずはPoC(概念実証)やスモールスタートで小さく始め、効果を確認しながら段階的に投資を拡大していく方法が有効です。

Q4. DX推進の成果がなかなか見えません。どうすれば良いですか?

A4. DXの目的が曖昧だと、単にツール導入や短期的な効率化に留まり、本来のビジネス課題解決や価値創造に繋がらないケースがあります。また、適切なKPIが設定されていない、あるいは設定されていても測定が困難な場合は、その効果を数値で示しにくいこともあります。 成果を出すためには、以下の点が重要です。 まず、DXによって「何を解決したいのか」「どのような価値を創造したいのか」といった目的を明確にし、具体的な数値目標(KPI)を設定することが不可欠です。 次に、設定したKPIを定期的にモニタリングし、目標達成状況を確認しましょう。 投資したコストに対してどれだけの効果が得られたかを検証するため、ROI(投資収益率)の評価も行うべきです。最後に、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)のPDCAサイクルを回し、常に最適化を図りながら継続的な改善を進めることが重要です。

Q5.DX推進の最初のステップである「要件定義」から相談することは可能ですか?

A5. はい、可能です。atarayoでは、分析要件定義から、データ収集基盤の構築、データ可視化、データを活用したマーケティング戦略の立案、施策支援までを一気通貫でサポートしています。パッケージ化されたサービスではなく、お客様の現状の課題や環境に合わせた柔軟な支援を提供していますので、まずはお気軽にご相談ください。

この記事の著者
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Tomotaka Kato
加藤丈峰
事業会社でBtoBマーケティングツールの新規事業開発から、新規事業のグロースとコンサルタント、データの活用支援を経て、
2022年に株式会社atarayoを設立。BtoBのデータ分析・マーケティング支援事業と、BtoCのEC事業を中心に展開。
この二つの事業を軸に、多様なニーズに応えるサービスを提供。